Fabrica design

学びの視点からデザインを考える

議論を可視化する「がようしマップ」

イデアの可視化を支援する

大阪で開催された第65回日本デザイン学会にて研究発表を行いました。

タイトルは「紙立体を活用した触知によるアイデア生成手法」

デザイン思考をベースにデザインプロセスを進める中で、アイデアが具現化されにくいという問題点を感じたことをきっかけに始めた、紙立体を活用した発想支援。今回は取り組みの中間発表として会場の方々からご意見をいただくのを目的に参加した。

発表の中核となる「がようしマップ」を検討する背景には2つの課題があった。

 

多様性と共通言語

まず1つめの課題は、異なる専門性の学生たちによる共創チームで「共通言語」が必要になったことだ。複合学科の学生メンバーで共創プロジェクトを実施した際に、それぞれが同じゴールに向かっているにもかかわらず、プログラミング、電子回路設計、UI、サーバープログラミングなど専門的な言語によってコミュニケーションを行うため、理解が進まず、議論が深まっていきにくいという問題点があった。そこで、プロジェクト2年目からデザイン思考を開発プロセスに導入した。

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早い段階でビジョン(コンセプトとユーザーの利用文脈)を触知可能な状態で共有する

2つ目の課題は、

デザイン思考をベースとしたプロセスで製品の具体的なイメージが固まるまで長い時間を要したことがある。共創デザインの経験値の低い学生たちが、それぞれのアイデアを出し合い1つの意見にまとめあげていくまでは様々な課題があった。

・意見を発案する自信がない。

・複数のアイデアが発案された場合にアイデアの選択ができない。

・文字やスケッチによる検討が長く続き、具体的なイメージが持てない。

コンセプトが固まってきた段階で、触知可能な状態でユーザーの利用文脈を理解し、コンセプトを全員が参加した状態で確認する課題があった。

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ものをつくることで考える

コンセプトがだいたい見えてきた段階で、手を動かしながら「ものをつくることで考える」方法を検討した。

構築主義(Constracrionizm)

ものを作る(構築する)ことで、頭の中に新しい知識を構築することができる。 シーモア・パパート

教育理論の1つに「構築主義」という考え方があり、「マニュアルに沿って何かを組み立てても、本人の知識や感情と結びつく経験にはならず、そこに学びは起きないと考えていた。ものを作ることで学ぶ学習体験が重要だという考え方だ。ピアジェの「知識は経験を通して構成されるもの」という考え方に深く影響を受けた、パパート教授がさらに推し進めて「ものを作る(構築する)ことで、頭の中に新しい知識を構築することができる」とした。

手を動かしながらものをつくることでイメージを構築していこうという考え方をベースとしたのが「がようしマップ」である。

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↑がようしマップの事例

 

がようしマップとは

がようしマップの活用シーンはいろいろ可能性がありそうだが、つくる手順は概ね以下の3つのステップである。

1.アイデアをプロットする

これから作ろうとしている製品や議論のテーマに関係する人物や建物、シーンなどに必要となる要素をプロットする。

2.関係性や時間を表現する

それらの要素を置いたり、並べたりするとそこに関係性や時間が表現される。

3.ストーリーを描く

がようしを立体的に活用して、実際にキャストやオブジェクトを動かしながら確認することで製品の利用シナリオがイメージできてくる。

また、アイデアを画用紙という手で触れるオブジェクトに置き換えることで、だれもが手で触り自由に移動したり組み合わせたりすることが可能になった。このことによって、メンバーのアイデアが全員に共有されやすくなった。

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これらを整理すると、以下のようにも捉えることができそうだ。

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がようしマップはだれが発案したのか

がようしマップは株式会社マルマンの協力により、画用紙を活用したワークショップの実験を行う「がようしラボ」がプラットフォームになっている。メンバーは、ワークショップデザイナーの横須賀ヨシユキと、「デザイン教育、発想支援手法」を研究テーマとする井上順子が中心である。画用紙を用いた「共創」「プロトタイピング」の可能性に焦点をあてたアイデア生成手法の共同開発を進めている。

 

がようしマップの特徴

がようしマップは他のアイデア可視化手法と比べると「直感的」に作成することができること、結果として「ストーリー」が描けることが特徴だ。

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がようしだから安心してアイデアを表現できる

だれもが小学校などで触ったことがある素材「画用紙」だからこそ、懐かしく、安心して手がだせる表現の土台となっている。

安心して使える素材という点は、「自由に」アイデアを誘発する懐の広さを持っている。

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触知_言葉以外の五感を用いた創発に期待

画用紙によって作られた立体オブジェクトは手で触ることができる。手で触り動かし、直感的に試しながら考える作業ができる。

視覚のみならず、触知による刺激が脳に伝わりアイデアを刺激し、楽しく発想が進む様子がみられた。

紙立体を活用した思考のプロトタイピング

手を動かし高速に試行錯誤し、メンバー内で緩やかに合意形成が生まれる。f:id:yoripingu:20180625154249p:plain

フレーミング

結果としてがようしマップを活用すると様々なリフレーミングが行われることがわかった。

フレーミングは大別すると「意味のリフレーミング」「状況のリフレーミング」の2種類があると言われている。

がようしマップでは、オブジェクトを置くために机の上に敷く大きな画用紙を差し替えることで、「状況」をリフレーミングする効果につながった。

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ものづくりにおける「がようしマップ」の活用事例

多様な専門性を持つ学生たちによる製品開発プロジェクトで「がようしマップ」を活用してみた。

事例1:開発し終わった製品を他に展開するためのアイデアを検討する

事例2:新規に製品のストーリーをデザインする

 

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事例1)開発し終わった製品を他に展開するためのアイデアを検討する

一度検討されたアイデアを他に転用、応用できないか検討する際にも「がようしマップ」は活用できることがわかった。

 

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 事例2)新規に製品のストーリーをデザインする

新規に製品の企画検討を進め、コンセプトの妥当性や詳細な要件などを探るためのツールとして「がようしマップ」を活用できることがわかった。

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モジュールツールについて

紙立体を活用したアイデア発想に要する時間は概ね20〜30分。

立体を制作するにはそれなりに時間もかかっていた。

こうした時間を短縮し、少しでもアイデアを議論する時間に充当できるよう、立体化にかかる時間や手間を少なくする工夫が必要になった。

また、株式会社マルマンからも「画用紙を用いたワークショップ」を広くビジネスシーンで広めていきたいという要望があった。

そこで、1)社内の業務や課題について議論するツールとして、2)画用紙の新しい使い方の可能性として、「絵を描く用紙(画用紙)から、ストーリーを描くモジュールの可能性を検討した。

絵が描けなくてもストーリーが描けるモジュールキットを検討している。

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がようしとアイデアを変化させる切り口

また、モジュールキットと合わせて、カードの作成も試みている。

「がようしマップ」のワークショプを行う際に、モジュールキットを活用しながら、カードに記載された10個の切り口を参考にしながらストーリーデザインや議論を進めていくことができる。

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がようしマップで見られたアイデアの特徴

紙立体を活用してストーリーをデザインするプロセスで見られた特徴がある。

オブジェクトを触りながらストーリーを整理していく過程で、1)概念を整理しながら作成している様子が見られた。

例えば、「疲れ」を解消する製品を検討している過程で、「疲れ」は「光、音、湿度」などのストレス要素にわけ、ひとつずつ解消することで、「疲れ」という概念が解消できる様子を説明していた。

その他にも、2)ものとものとの関係性「経緯や変化」を表すことに効果があること。3)ストーリーの前後を表現できること。4)不定形もすぐに表現でき可塑性に富んでいること。がわかった。

 

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がようしマップの動画活用とリフレクション

がようしマップは大きなサイズになるため、保管が困難である。また、オブジェクトを動かしながら時間の変遷や変化を扱うため、完成したがようしマップを眺めただけではそれらが伝わらない。

こうしたことから、がようしマップを完成したら動画で撮影すると、シナリオとして活用することができる。

さらに、一度作成した動画を見直すことで、本来検討していたコンセプトの核からズレていたり、扱うべき機能などに無駄があることにきづけることがわかった。

リフレクションとしての機能も期待できそうである。

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学生たちのアンケートを分析すると以下のような声が見出せた。

<がようしマップが内省として活用できそう>

・自分たちの頭の中を整理できる。

・チームで認識を共有することができる。

<可視化>

・会話だけでは共有しきれない情報を目に見えて理解できる。

・これまで想像としてあったものが、目に見える形としてある。

<プロセスを整理できる>

・必要な機能や、逆に不必要な部分に気づける。

・ターゲットユーザーに向けて機能を絞ることができる。

・製品の完成形が想像しやすかった。

・どうすれば聞き手が理解しやすくなるのかを意識できた。

 

今後の課題・検討したいこと

 学会発表により多くのご意見をいただくことができました。

・(学生さんが)ものを作ることが目的になり、当初の解決すべき問題が不明確になりがちなので、がようしマップを活用してみたい。

・「どうやってモジュールの形状を決めたのか?」

→ストーリーを描く際に登場する頻度の高い「人」「建物」を作るパーツとして検討した。今後も必要な形状やサイズを検討していきたいと考えている。1つ特徴的なカード形状として「矢印」がある。これは登場するモノを表すパーツではなく、モノとモノをつなぐ役割を持つパーツである。矢印の他にもストーリーの構成に役立てるパーツがあるかもしれない。

・「色つきの紙は使わないのか?」

→白いほうがカスタマイズがしやすくて良さそうだ。ベースに色が付くことによって、別の情報やレイヤーも扱えそうなので今後検討してみたい。

・議論を共有するための手法としてとても良い。使ってみたい。

・(学生さんより)模造紙に書くと消せないので、ストーリーボードを書く際に模造紙を6回も書き直したことがある。その時間がとてももったいなかったのだが、がようしマップだと部分的に修正できたり、ブラッシュアップもできそうだと感じた。

・ストーリーボードを他者に説明する時、下級生など経験値の低い人に説明するにはかなり大変だ。分析的に見る目を持っていない人でも、ストーリーや特徴を伝えやすいと感じた。

・パッと見てわかるのがいい。

・動かしながら説明できるので、説明がしやすそう。

・ものを作りながらコミュニケーションできるので、ぜひ使ってみたい。

・全員で手を動かし触りながら話をすると、話が進めやすそう。(いつも議論の場がシーンとしてしまいがちなので)

・がようしマップを作成している時に、メンバー同士で「今のシーンはどう考えていた?」というのをメモできるカードがあるといいと思った。

・幼稚園など小さい子どもでも創発がしやすいかもしれないと感じた。

・がようしマップを見て、「プロトタイプ」はこんな簡単な形でもいいのだと改めて気づくきっかけになった。

・アイデアは試してみる、まずはものにすることが重要なので、とてもいい方法だと思う。

・成熟した市場に新しい価値をどのように発想したらいいかモヤモヤと考えていたが、がようしマップを使うと「モヤモヤ」したアイデアを瞬発的に出すことができそうだと感じた。(車メーカー)

・モジュールパーツを完成させるためには整理することが必要そうだ。ワークショップを分析して、レイヤー分析するとよさそうだ。

・アクティングアウトとがようしマップの違いはなんですか?

→客体と主体の違いがあると感じている。アクティングアウトは自分が動くことで体感として仕組みを理解することができる一方で客観的にながめることが難しい。

がようしマップはがようしを手で動かすので、客体として扱うことができ、客観的に俯瞰してみることができる。

関係性を可視化するような(ダイヤグラム)のようなものはがようしマップが向いている。自分ごと化してものがどう動くかを確認する際にはアクティングアウトが向いていそう。

・ゴールまでの時間の長さをどう解決するのか?

製品開発では長い時間を要することが多く、調整が難しいと感じているが、がようしマップではどのように解決することができるのか?

・ありものを活用するパワーを改めて見直すきっかけになった。紙コップから発想する時にすごく盛り上がった経験があるが、そのように、キューブのようなたった1つのオブジェクトでもこんないろいろな発想を促す足場になるのだと感じた。

・みんなでフラットにアイデアを出す時に良さそう。

・かきこめるところが良い。

 

今回の学会参加の発表内容といただいた意見をまとめた健忘録的な内容となりましたが...。

今後継続的にブラッシュアップを重ね、モジュールツールを形にしていきたいと考えています。

 

がようしマップを試してみたいとお考えの方へ

以下のリンクから「がようしマップ」で活用できる「カード」と「モジュールツールがダウンロードできます。

Gayoushicard.pdf - Google ドライブ

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