Fabrica design

学びの視点からデザインを考える

共創-フラットな関係性の構築と製品開発 

多学科学生による開発チームでIoTをテーマにしたアイデアソンを実施

3年前からスタートした共創プロジェクト。総合学園である強みを生かして複合学科で横断的な製品開発のプロジェクトを試みるものだ。今年は3回目のチャレンジで、学生たちも3期生を迎えた。年々学生たちと教員のスケジューリングが難しくなり、課外活動の運用が壁となっている。今年は思い切って2泊3日の宿泊合宿にてアイデアソンを行うことにした。

 

共創-開発企業、ユーザー、学生がフラットな関係でものづくり

このプロジェクトの良さはIoTをキーワードに製品アイデアを検討し、動くモックアップまで仕上げること。ファシリテーターは、電気応用工学、Webデザイン、CG映像、CG研究、グラフィックデザインの専門教員が務める。学びの環境や枠組み自体をプロトタイピングしながら、試行錯誤で取り組んでいる。

プロジェクトスタートから数えて3年目となる今年は、開発企業とユーザーである看護師さん、そして制作の主体である学生たちがフラットな関係でチームを結成し製品の完成を目指す。

 

多様な専門性を持つチームの共通言語は「デザイン思考」

今年の開発プロセスはデザイン思考をベースに、オリジナルツール「がようしマップ」を活用しながらストーリーデザインに取り組んだ。

以下、2泊3日のアイデアソンを時系列に記録する。

 

1 ユーザーに共感する・理解する

イデアソンに先立ち、ユーザーインタビューを行った。今年は看護師の「休むこと」についての課題に取り組む。看護師さんにお越しいただき、前もって作成しておいた質問を投げかけながらお答えいただいた。看護師にとって「休むこと」は休息を意味し回復への質を下げる「不快な温度・におい・音・光」などを取り除き快適さを提供することに気遣っていることがわかった。私たちがイメージする「リフレッシュ」や「睡眠」といったダイレクトな発想でなく、専門的なアプローチと知識をお持ちであることがわかった。

2 問題を定義し・明瞭化する

インタビューの振り返り・共感マップ

インタビュー内容を振り返り、特徴的な言葉を抽出していく作業からアイデアソンがスタート。看護師が語っていた内容から言葉を抽出しポストイットに書き出した。その後、ポストイットを「看護師が言っていた発言(Say)」「やっていた行動(Do)」に分類しながら共感マップを作成した。「看護師が言っていた発言(Say)」からわれわれが想像した「ユーザーが考えていること(Think)」を、「やっていた行動(Do)」からわれわれが想像した「ユーザーの気持ち(Feek)」を書き足した。

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完成した共感マップには、メンバーそれぞれが3つずつ特に注目したい観点を選び「赤いシール」を貼る。

 

ユーザー像を整理する ペルソナ・シナリオ

次にペルソナ・シナリオを作成し看護師さんへの共感を高める。

また、共感マップとペルソナ・シナリオから導いた「着眼点」を設定しユーザーの視点に気づくよう取り組んだ。

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着眼点を整理。

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↑Aチームの着眼点。

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いくつか着眼点を検討する。その中からメンバーでもっとも共感できた着眼点に絞り込む。

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↑Bチームの着眼点。

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3 アイデアを開発・創造する HowMightWe...(HMW)

次に着眼点をふまえて「どうすれば課題を解決できるか?」という機会探索文を考えていく。HowMightWe...(HMW)の手法を活用し、着眼点に対して10個の視点から強制的に問いを考え、課題解決のための視点を探索する。

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今回のアイデアソンのために制作したHMWカード。問いを作る10個の視点をカードにしてみた。

 

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機会探索文がかけたら、メンバーで3つの案を選ぶ。選ぶ際のポイントは「有用性」と「新規性」。ユーザーにとって役にたつアイデアであるかと、新しいアイデアであること、話題になりそうかである。

そして、探索文から具体的なアイデアを検討していく。ブレインストーミングでは、短時間で高速に多くのアイデアを出すことに注力した。10分間のブレインストーミングを3回。1、2回目は自由なアイデアを出し、3回目は「制約ブレイントーミング」を行う。今回の制約は「同業者で話題になるか」「うらやましがられるか」である。

 

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ブレインストーミング1回目

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ブレインストーミング2回目

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ブレインストーミング3回目

 

ブレインストーミングの整理(アイデアの抽出)コンセプトマップ

ここでまた、メンバーでアイデアの抽出を行う。

抽出の観点は「有用性」「実現性」「革新性」である。

ユーザーに喜んでもらえるか、形になりそうか、前代未聞であるかの観点で選んでいく。

それら得票数の多かったものを中心にコンセプトマップを作成する。

 

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これらのコンセプトマップから導いたアイデアを最終的に選択する。

選択の観点は「実現性」「革新性」「有用性」の3つである。

 

コンセプト作成 エレベーターピッチ

さらに、「コンセプト」にまとめる。

まとめ方は「エレベーターピッチ」方式で完結に。

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このコンセプトに基づいた製品アイデアがどのようなものであるか一目でみてわかるようにラフスケッチに描いた。

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開発企業からユーザーベネフィットの視点からアドバイス

この段階でコンセプトを説明し、企業でIoT製品の開発に携わる方々にアドバイスをいただく。学生たちはここまで進めてきたアイデアをブラッシュアップさせる上で、ユーザーベネフィットの視点に気づくことによって客観的な視点をきっかけになった。

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ユーザーの利用文脈を整理する ストーリーボード

さらに、ストーリーボードにまとめ、ユーザーの利用文脈について検討する。この段階ではなるべくシンプルに要点に止め、次のがようしマップで発展をさせていった。

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チームで製品の構想を議論し共有する がようしマップ 

まとめとして「がようしマップ」でユーザーの利用シーンや環境についてストーリーをデザインする。ここまでスケッチや文字といった抽象的な表現に止まっていた製品イメージを一気に具体化していく。

合わせて、チームメンバーがそれぞれに持っていた製品に対するイメージ(ブランド性、機能性、有効性、利用文脈)をすり合わせていく作業となった。

(がようしマップについての詳細は下記にリンクあり)

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↑制作されたがようしマップ

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 がようしマップの時間はさながら図画工作。これまでの表情から一気に「笑顔」が溢れ会話が活発になる

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↑がようしマップが完成するまでは20-30分かかるスローな作業。ただし、個人個人はかなり高速に思考を回転させメンバーの作業を横目で確認しつつ、全体の中で個人のイメージをすりあわせていく作業を行っていた。

 

がようしマップとモジュールキット

がようしマップでは、モジュールキットを使うことで、扱うデータの概念(包含関係やデータの大小など)を整理することができる。

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↑モジュールキット。立体オブジェクトを作成する際に「人」や「たてもの」などを簡単に表したり、概念やイメージなど抽象的な「コト」を見立てて表現することができる。

 

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↑モジュールを活用した代表的な表現の特徴。立体に表すことで「ストーリーの前後」を表すケースは多く見られた。人の表情の変化を画用紙の表と裏で表現するなど工夫が見られた。

 

がようしマップと指示カード

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gayoushi-lab.net

がようしマップとリフレクション

また、一度がようしマップを制作したら動画に撮影して、ユーザーシナリオを確認する。客観的に動画をチェックすると、シナリオがユーザーにとってのメリットや価値を伝えておらず、開発者側のこだわりや機能に偏っていることに気づく場合がある。

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ユーザー視点でこれから提供する製品が、どのような価値があるのかシナリオをもう一度整理し直して、再度動画を撮影するとコンセプトが整理される。

 

4 プロトタイプ

簡易なプロトタイプを制作する。この段階ではなるべく「早く」「安く」「雑に」作ることが良しとされる。身の回りにある素材で手早く制作しよう。

 

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デザインアイデアを確実に伝える手段としてのラピッドプロトタイピング | アドビUX道場 #UXDojo – Adobe Creative Station

 

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 ↑プロトタイプを紙で作る担当学生、そこでやり取りされるデータのフロー図を検討する学生など、この段階から技術的な視点を意識して検討された。

5 テスト

2泊3日のアイデアソンも終盤。ここまで進めてきた製品についてテストを行いました。2チームがそれぞれ相互にユーザー役をつとめ、ユーザーの利用シーンを演じます。開発チームはそれを観察して自分たちの構想にブレや矛盾がないかを客観的に判断した。

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↑ユーザーテストの様子。 

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↑開発チームはユーザーの演じている様子を観察しメモをとっていた。

番外編 各種技術に関する講話

今回のアイデアソンではワークショップの合間に最新技術動向を紹介する講話も行った。サポート役に入っている教員たちがCG,CG映像、IoT業界から技術や話題を持ち寄り講話と実演をした。

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VR技術を体験する学生

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ラズベリーパイやセンサーの紹介

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ラズベリーパイやセンサーの紹介

 

開発企業と共同したアイデアソン

2泊3日のアイデアソンには開発企業5名も参加した。今回はこのアイデアソンで検討している製品を実際に商品化することがゴールになっている。

開発主体は学生たちだが、製品化までのプロセスを共に体験することで、早い段階でユーザーベネフィットや技術視点でのアドバイスをフィードバックすることができた。

上流工程を共同で行ったことで、開発企業と学生がチーム一丸となってコンセプトを共有することができた。今後製品を実際に制作していく過程では、製品構想が変更されることも出てくると思われるが、いつでも立ち戻れる立脚点を持てたことが財産になったのではなかと思われる。